省力化スパイラルに陥らないないための運営戦略
〜 その場しのぎの「省力化」に未来は無い!〜

プロが教えるゴルフ場省力化のポイントpart1

   省力化をすれば、ゴルフ場の収支は改善する。そんな甘い囁きを信じ、闇雲に省力化に走ったゴルフ場は数多い。確かに、ゴルファーの価値観も確実に変化した現在、ゴルフ場の省力化は必要不可欠な方策といえるだろう。しかし、「省力化」と「収支の改善」は決してイコールでは無いのだ。そこで今回は「勝ち組コース」の仕掛け人として知られる菊地英樹氏が、省力化の問題点とその解決策を解説する。

サービス業に於いて省力化は「諸刃の剣」

  法的整理をしたゴルフ場の数約650コース。この数字を多いと見るか?少ないと見るか?
  80年代半ばの俗に言う「バブル経済」が始まるまで、国内のゴルフ場は現在のおよそ半分の数しかなかった。しかも、本来であれば償還問題など気にすることの無い、それ以前に開場した古いコースに於いても、この時期クラブハウスの改修を口実に新規募集をしたり、新設のグループコースの債務保証をすることによって、結果的に償還問題を抱えてしまったケースは数多い。
  もっとも、ゴルフ場の経営破綻の原因が、預託金問題だけだと思ったら大間違いだ。
  ゴルフ場の多くは10年以上も続いた景気の低迷により利用者が減少すると同時に、利用料金の値下げから売上げも急激に落ち込み、営業利益は激減する結果となった。従来、ゴルフ場の経営破綻の要因は建設時の借り入れによる「金融債務」、そして会員権販売による「預託金債務」が主たるものであったが、現在では日々の運営が赤字に陥り、それによる派生する「営業債務」によるケースも少なくない。特に最近は、一度法的整理を受けたゴルフ場にも関わらず、二次破綻を来すゴルフ場が問題視されているが、その原因はまさにこの「営業債務」にある。
  つまり、経営破綻を来たし、法的整理をするゴルフ場の数が今後も更に増加することは疑いようのない事実ということだ。
  このように、ゴルフ場を取り巻く経営環境が悪化する中で、各ゴルフ場では利用料金の値下げや優待策など、10年前には見られなかった集客に対する営業努力が必要とされる時代になった。一方で、営業収支の健全化をめざして経営コストの削減をはかるため、大胆な省力化を図ることを余儀なくされる時代なのである。
  では、省力化をすればゴルフ場の運営収支は必ず改善されるのか? 答えは「NO」だ。
  確かに、省力化によってコストを抑えることはできるだろう。特に、無駄なコストを垂れ流していたような高級コース、高額コースであれば尚更である。しかし、コストの削減がイコール収支の改善ではないし、ましてや省力化がイコール収支の改善では無いのである。何故ならば、ゴルフ場はあくまでもゴルファーというお客様を相手にした運営施設業であり、サービス業であるからに他ならない。そう、闇雲な省力化はお客様の支持を失って更なる売上げの減少を引き起こし、ゴルフ場は今以上の省力化をめざして泥沼にはまるという「省力化スパイラル」に陥るだけであり、運営収支の改善という主旨とは大きくかけ離れてしまうだけ。まさに、「負け組」の運営手法といえるのである。

省力化する前に運営システムの変更は必須

  ゴルフ場運営で最も大切なことは、卓越した商品力によって確立される「差別化」と、その差別化によって来場したゴルファーを再び呼び寄せる、つまりリピーター化するといった「囲い込み」にある。このふたつの要素をバランス良く成立させるのが「勝ち組」コースの運営手法といえるのだが、多くのコースはそれに重きを置かず、省力化によるコストの削減ばかりを追いたがる。しかし、何度もいうようだがゴルフ場は顧客の満足度合いによって成立しているサービス業。ただ単に省力化してプレー料金を安くさえすればその顧客満足度を高められるというものではない。
  例えば、省力化によってプレー料金は安くできた反面、スタッフの数を単純に削減したコースはどうだろうか? 当然ながらあらゆる所に無理が出てサービスの低下を招き、ゴルファーから見ればただ単に「サービスの悪いゴルフ場」にしか見えなくなるのだ。
  確かに、プレー料金の安さも商品力としては有効であり、「差別化」のひとつであることは間違いない。しかし、「安さ」でしか差別化ができないコースは、常に他コースの料金によって売上げが左右される結果となるだけ。他の商品力を兼ね備えたコースが値下げした瞬間、「安さ」だけのコースはゴルファーの選択肢から見事に外れることとなる。
  そこで大切なのが、省力化してもサービスの質を落とさないように、これまでの構造やシステムそのものを最初に、そして根本的に変えてしまうことだ。そうすれば、省力化しても料金以外に「差別化」を見いだすことが可能となり、安さだけが差別化となっているゴルフ場が陥りがちな「省力化スパイラル」から脱却できるというわけである。
  但し、ここで間違ってはいけないのは、だからといって人員の削減を見送ったり、給与体系などを見直さなくとも良いという意味では決してないということだ。ゴルフ場の経営コストの中で、一番大きいウェイトを占めるのが労務費。入場者数や売上額が減っても比例的に減らない固定経費として収支を圧迫する労務コストの改善は、収支改善最大のキーポイントであることは間違いない。
  また、省力化の意味を辞書で調べると、書き方の違いこそあれ「機械化や共同化によって、労働の手間や苦しさを取り除く手段」とある。つまり、省力化する以上は必然的に人員が削減され、また、そうならなければおこなう意味もないのだ。
  運営施設業、そしてサービス業は、時としてそこで働く「人がすべて」といった価値判断がある。しかし、そもそもサービス業に興味が無く、更にはゴルフ場にも興味がないようなスタッフが、「他に就職する場所もないから」といった理由で働いているのを目の当たりにすると、「人がすべて」などと悠長なことをいっている暇はない。市場が成熟し、競争力があるゴルフ場だけが淘汰され、その上で更なる「差別化」が必要というのであれば、それこそ「人がすべて」であるのだが、ゴルフ場市場はまだまだ過渡期。それ以前に手を付けなければならない問題が、山積しているのである。

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