入場者数や客単価が減少し、収益の悪化に頭を悩ますゴルフ場業界。そんな中にあって、1999年秋の仮オープン以来連日盛況、ホームページには1ヶ月で約50万件ものヒット数を記録するという話題のパブリックコースが関西にあるという。吉川インターゴルフ倶楽部メッチャ。浪速のゴルファーはもちろん、業界関係者からも注目を浴びている「お化けコース」の人気の秘密を、同コースのコンサルティングをおこなっている菊地英樹氏に聞く短期連載。そこには、低迷したゴルフ場市場を活性化させるヒントの数々が隠されている

入場者数や売上高にこだわらない「収益追求型コース」

コンセプトの需要性を知る

   吉川インターゴルフ倶楽部メッチャは「関西のゴルフ場銀座」ともいわれている兵庫県の三木・吉川・小野エリアのど真ん中に1999年の10月に仮オープンしました。(正式オープンは2000年4月1日)
   この三木・吉川・小野エリアは神戸から至近であるだけでなく、中国自動車道や山陽自動車道といった高速道路網に恵まれているため大阪市内からのアクセスも良く、また、アップ&ダウンのあるコースが多い兵庫県にありながら比較的フラットな地形であることもあり名門コースや高級志向のゴルフ場が多いことで知られています。
   そんな中にあってメッチャは吉川インターチェンジを出て僅か3分という最も恵まれたロケーションを誇りコースやクラブハウスもメンバーシップ制のゴルフ倶楽部を意識した本格的なものが完成していました。
   このような好条件が重なれば従来なら「高級志向」「高額志向」のゴルフ場を企画したくなるところですが(事実、今でも「そうした方が良いのでは?」といった声をよく聞きます)敢えて「誰もが気軽に、手軽に利用できる大衆コース」としてデビューさせることにしたのです。
   ちなみに、メッチャという愛称は大阪弁でいう「もの凄い」といった意味を表す言葉。周辺に「吉川」という名称が含まれるゴルフ場が多いので混合されないためと、既存の概念にとらわれない新しいゴルフ場のイメージ、斬新なゴルフ場の運営姿勢を表現することからこうした愛称を付け、他コースとの差別化をはかりました。耳にしたときに「?」といった第一印象を与えるだけでも、この狙いは成功。最近ではゴルファーからも「吉川インターGC」というより、親しみを込めて「メッチャ」と呼んでもらえるようになり、その成果は十分にあがっているようです。
   では、どうして大衆コースの道を選んだのか? しかも、それなりのハードを持っていながら、周辺のどのコースよりも安い低価格を打ち出すという“徹底した大衆化路線”を歩んだのでしょうか?
   ご存知のようにゴルフ場の入場者数は年々減少傾向にあります。それでも大阪という大商圏を抱えている兵庫県は比較的高い数値といえたのですが、様々な現象が関西は関東に比べると2年もしくは3年程度遅れでやって来ていることを考えると、決して楽観視できるものではありません。
   よく、「パブリックコースは集客がラク」「安くさえすればある程度の来場者数が見込める」といった声を耳にします。しかし、集客のベースとなるメンバーがいないパブリックコースは常に「ゼロからの集客」。また、安くすればそこそこの入場者数は確保できるかも知れませんが、それが未来永劫続く保証はどこにもありません。アクセスやハードに恵まれたパブリックコースだからといって、そう簡単に集客できるほど甘くはない。常にこうした危機感を抱きながらゴルフ場の方向性を構築し、少しでもリスクヘッジをする姿勢をベースに置いたからこそ、敢えて“徹底した大衆化路線”を選んだのです。

コンセプトと心中する勇気を持つ

   では次に、具体的なリスクヘッジの内容です。
   メッチャがめざしたのは、あくまでも収益性の高いゴルフ場です。売り上げが多いゴルフ場でもなければ、ましてや入場者数が多いゴルフ場ではありません。
   例えば、7億円の売上に対して5億円の営業経費を使うゴルフ場と、4億円の売上に対して2億円の営業経費を使うゴルフ場を比べると、収益は同じ2億円であるものの、4億円の売上しかないゴルフ場の方が圧倒的にリスクは少ない事がわかります。客単価と入場者数が減少傾向にある現在、7億円もの収入を得ること自体に疑問符が付きますし、仮に達成できたとしてもその過程の苦労は並大抵のものではありません。何より、無理に売上を伸ばそうとするあまり入場者を強引に詰め込んだり、不明瞭な割引料金を設定したり、押し売りのように高額のレストランで食事をさせたりすることが、ゴルファーのより一層のゴルフ場離れを加速させてしまうことは明白で、そんなことだけは絶対にしたくなかったのです。
   ちなみに、連日盛況ということで6万人以上の入場者を想像されている方も多いかもしれませんが、完全スループレーを実施しているためにキャパシティの少ないメッチャは、実は約4万2000人程度のゴルファーしか受け入れることができません。しかし、それでも収支上は何ら問題はなく、しかも、そんな運営姿勢だからこそゴルファーに人気があるわけですから、無理に入場者数だけを伸ばす必要性も一切ないのです。大切なのは季節や曜日を問わず、コンスタントにお客様が来て下さること。入場者の平均化がコストの削減に大きな影響を与えてくれていることは、いうまでもありません。(唯一、満員で予約をお断りすることが心苦しいのですが…)
   収入を少なく考える一方で、支出を極端に抑える。メッチャの営業戦略をひと言でいうと、こうなります。このような営業を展開していれば、仮に入場者が少なくとも慌てないし、もし仮に入場者が増えれば、それはボーナスみたいなもの。現場の志気を考えても、その方が良いに決まっています。
   収入は少なく見積もって、支出は多く見積もる。当たり前のようですが、これが収支計画を作成する上での鉄則です。しかし、大部分のゴルフ場では入場者や客単価が確実に減少傾向にあるというのに、依然として無理な収支計画をつくり、自分で自分の首を絞めているよう思われます。実際、メッチャでは当初の収支計画の収入に関しては2倍近く。それに対して支出は計画以下という現実となれば、それはもう「ひとり勝ち」といわれても当然なのかも知れません。
   以上がゴルフ場を営業する上のコンセプトであれば、次に大切なのはそれをどのような形で具現化していくか? つまり運営コンセプトです。但し、収入を少なく考える一方で、支出を極端に抑えるといった基本姿勢がある以上、運営コンセプトも自ずと決定されてしまいます。それを無理矢理に方向転回しようとすると統一感のないものになり、当然ながら「ゴルファーから好かれるゴルフ場」になど成り得ません。
   営業経費を極端に抑えたメッチャは徹底した合理化を推進したゴルフ場となっています。そのため、従来のような人的サービスを極力廃した運営スタイルに成らざるを得ません。そこで「スポーツ・カジュアル・リーズナブル」といった運営コンセプトを掲げ、それをゴルファーにも理解していただくようにしています。
   スポーツと割り切ればセルフサービスや自己責任の鉄則が当然になり、カジュアルならば無駄な経費が削減でき、リーズナブルということでそれらのすべてを正当化することが可能となります。つまり、「他のゴルフ場と違った運営スタイルですが、それらはすべてプレーフィを安くするための方策なのです」ということを、この運営コンセプトが端的に物語ってくれているのです。
   ちなみにメッチャでは「メッチャの法則」といった印刷物を作成して来場者に渡し、メッチャならではの運営方式を説明すると同時にこうしたゴルフ場のポリシーをゴルファーに理解していただくようにしています。
   ゴルフ場はコンセプトが命。このコンセプトをスタッフ全員が正しく理解できたなら、ゴルフ場の進むべき方向は極めてシンプルなものになります。様々な問題点が噴出しても、その答えは基本コンセプトが教えてくれるはずです。今回のメッチャは「スポーツ・カジュアル・リーズナブル」といったものでしたが、コースによってはこれが「高級志向」であっても、それはそれで間違いではありません。問題なのは明確なコンセプトがないゴルフ場。これでは他コースとの差別化などできるはずもなく、ゴルファーがそのゴルフ場を選ぶ動機付けができません。明確なコンセプトがないゴルフ場は「価格」でしか競争する要素がなくなり、割引合戦に引き込まれ、結果は…。
   もちろん、徹底した差別化を図ることにより、「だから行かない」といった動機付けをゴルファーに与えてしまうことも考えられます。しかし、それはある意味で仕方がないと割り切ることも大切です。万人にウケようとして万人に嫌われる。それが今までのゴルフ場の姿でもあるのです。「コンセプトを理解したゴルファーだけに来ていただければそれで良い」。そんな割り切りが、これからのゴルフ場運営には欠かせないのではないでしょうか?
   但し、一度決めたコンセプトは何が何でも守り抜く。最近はゴルファーニーズを掴みきれずに右往左往して、当初のコンセプトを蔑ろにし、それがまたゴルファーに不信感を抱かせているケースをよく見かけます。たとえば、メッチャはメタルスパイク禁止コース。スニーカーでもかまわないと事前に案内し、それでも忘れたゴルファーのために廉価なゴルフシューズを用意するなど、徹底的してメタルスパイクを排除しています。例外を認めるくらいなら、最初から「ジャケット着用」なんて義務づけるな! そんな不条理な思いを抱いていたゴルファーが、どれだけ多かったか想像したことはありますか?
   大切なのは「コンセプトのためには心中してもいい」。そんな強固な信念なのです。

最新鋭の自動化マシーンの活用

   「スポーツ・カジュアル・リーズナブル」といった基本コンセプトを掲げるメッチャは、それを具現化するために数々のアイデアを採用しています。例えば徹底したセルフサービスもそのひとつです。
   メッチャには玄関の前で出迎えるスタッフはひとりもいません。そこには「キャディバッグはお客さまご自身でクラブハウス内へお持ち下さい」というサイン看板があるだけです。また、カートへキャディバッグを積むのもゴルファーなら、プレーが終わった後もゴルファーが自分自身でキャディバッグをカートから下ろし、自分で管理しなければなりません。
しかし、ここからが他のセルフサービスのゴルフ場と違うところです。メッチャには最先端とも呼ばれるオペレーションマシーンが導入され、それを活用して徹底的な合理化がはかられているのです。
   メッチャでは最初にプレーフィを自動チェックイン機で前払いします。最近ではこうした機械による受付をしているゴルフ場が多くなっている一方、その導入に関しては賛否両論あるのも事実です。しかし、お金の回収だけを目的とした単なる自動発券機ではなく、来場者の識別が可能で顧客データとしても蓄積される自動チェックイン機は、朝のフロント業務を簡素化できるので非常に便利なことは間違いありません。初めての来場者にはインフォメーション係が使い方をレクチャーしていたのですが、最近では既に何回も来ているお客様が初めての方に「こうするんだよ」といって教える光景も増え、結果的にリピーターのハートをくすぐるアイテムにもなっています。
   自動チェックイン機でお金を支払われたお客様はキャディバッグ置き場にある大型モニター(プラズマ画面)で使用するカートの番号とスタート時間を確認し、自分でキャディバッグをカートに積み込みます。モニターの名前はチェックインが終了すると変色し、マスター室で来場状況が把握できるのでスタート管理も非常に効率的です。
   ラウンドは乗用カートを使用した完全セルフプレーですが、この電磁式の自動カートにはGPSのカートナビゲーションシステムが搭載され、ゴルファーはモニター画面を見ながらプレーをします。モニターにはホールのレイアウトとカートからピンまでの残ヤードはもちろん、コースの攻略法やグリーンの拡大図などが表示されるので、セルフプレーで不足しがちなコースの案内を補うことが可能です。また、ブラインドホールでの打ち込み防止の表示や落雷注意の案内はもちろん、マスター室でカートの進行状況が瞬時に把握できるのでスロープレー対策にも大いに役立っています。
   この他にも、レジ内の合計金額はもちろん、その金種をも自動的に識別する自動レジスターなども導入されており、省力運営の対策は万全です。何せインターネットによる自動予約と連動させることもできるので、やろうと思えばゴルファーはスタッフと一切顔を合わせずにスタートするなんてことも可能に。もちろん、今はそこまで極端なことをするつもりはありませんが、いざとなったらそんな徹底したオペレーションも可能なほど、オートメーション化は進化しているのです。
   こうした最新鋭のオペレーションマシーンを活用することで、スタッフを大幅に削減することができ、結果的にプレーフィを安くすることができるのでゴルファーにも喜んでいただける…。ちなみに、メッチャ本体の運営スタッフは10名から12名。(季節により変動。コース管理やレストランなどは外注)契約社員やアルバイトが中心ということもあり、法定福利費用や福利厚生費用などを含めても年間5,000万円以下という低い人件費コストを実現しています。

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