ゴルフ場の人件費を削減するには、ゴルフ場で働くスタッフの適正人員を考察する必要がある。もっとも、ゴルフ人口が減少し、今後は今以上に供給過多となるゴルフ場業界。「淘汰」(閉鎖による数の減少)と「集中」(対象人口の増加)という一般的な経済原理が見込めないマーケットの中である一定の利益を確保するためには、適正人員は自ずと減少する傾向にあることは確かだ。そこで重要となるのが、少ないスタッフでも日常のオペレーションに支障を来さない、一人が何役もこなす「マルチジョブ」と呼ばれる勤務スタイルである。
時間帯によって必要となるスタッフの数が大きく異なり、また、その場所(部門)も変化していくゴルフ場だけに、マルチジョブの効果とその恩恵は、想像以上に大きい。但し、マルチジョブを実現するためには、スタッフの意識改革が必要となる。「フロント担当なので、ポーターやスタートヤードは手伝わない」「マスター室勤務だから、予約の電話は取らない」といった言い訳が出るうちは、マルチジョブを徹底している競合ゴルフ場と勝負にはならない。また、マルチジョブを実行するためには、例えば制服から刷新する必要がある。ハイヒールとスカートでは、ポーターやスタートヤードでの力仕事は無理だろう。スポーツジムを代表とするスポーツ施設らしいカジュアルな制服を採用する。それは特別なことではなく、むしろマルチジョブを推進するためには当然のことといえるのだ。
もっとも、収益ベースで考察すべき適正人員の問題は「数」ではなく、あくまでも「額」なのである(人員問題で本当に大切なのは、「質」なのだが・・・)。言い換えるなら、人件費比率が一定のパーセントを維持できれば、その金額の増減はあれ、確実に利益を生むことが出来るというわけだ。
ひと時代前まで、「全組キャディ付で全部門自社運営のゴルフ場の人件費の目安は、総売り上げの50%以下」といわれていた。しかし、売り上げが下がった現在では、目安となる「人件費比率50%」で利益を出すことは難しい。何より、全組キャディ付で、しかも全部門自社運営のゴルフ場を探す方が難しい時代だ。では、人件費の割合は、一体どの程度の数字をめざすべきなのだろうか?
業界大手のあるグループ企業が発表している資料を分析すると、人件費の割合はおよそ30%程度であることがわかる。この数字はキャディ付きや高級コンセプトのコースはもちろん、極端に売り上げの低いコースといった人件費比率が高くなる傾向にあるゴルフ場も交じった平均であり、セルフプレー中心の一般的なコースであれば、その割合は当然ながら低くなる。また、仮にコース管理やレストラン部門を委託したと想定すると、残ったフロントやマスター室まわりの人件費比率は15%を切ると試算される。
一方、前述したように、人件費で問題になるのはスタッフの「数」ではなく、あくまでも「額」である。つまり、本当は「スタッフの数は多いものの、人件費の総額は安い」というのが、ゴルフ場のオペレーションにとっては理想だ。そこで問題になるのが、一般的に給与が高いといわれる正社員数の割合なのだが、同じように前出の大手グループ企業の全従業員に対する正社員の比率を分析すると、20%前後であることがわかる。
さて、この数字を見て、皆さんはどう感じただろうか? もちろん、ゴルフ場の成り立ちや生い立ち、コンセプトの違いがあるので、「何が正解か?」の判断は難しい。しかし、少なくともこの人件費比率の低さであれば、今以上に売り上げが下がってとしても、まだまだ利益を生むことは可能なのである。つまり、この先もプレー料金は下がるということだ。翻って、皆さんのゴルフ場は、今後も続くと思われる熾烈な価格競争に生き残っていけるのだろうか? 呑気なことをいっている余裕は無い。「待ったなしの省力化が必要!」というのは、まさにこうした理由があるからに他ならない。