省力化の本質は人件費の削減
「入場者数」を追えば「客単価」が下がり、「客単価」を上げれば「入場者数」が著しく減少するゴルフ場マーケット。益々市場が縮小しているゴルフ場ビジネスに、果たして未来はあるのだろうか? そこで今回は、ダーウィンの進化論を引用し、「生き残ることができるゴルフ場は、環境(縮小する市場)に適応したゴルフ場」と提唱する筆者の、「ゴルフ場進化論」をお届けする。
省力化の本質は人件費の削減
バブル経済が崩壊して20年以上も経った今日だけに、もはや省力化をしていないゴルフ場など皆無だろう。しかし、本当の意味での省力化が必要になるのは、実はこれからなのである。
省力化という言葉を辞書で引くと、「機械化・共同化などによって、作業の手間や労力を省くこと」とある。つまり、この意味をゴルフ場のオペレーションに当てはめると、その最終目的は「人件費の削減」であることは間違いない。では、どうして今以上の省力化、即ち人件費の削減が求められるようになるのだろうか?
ゴルフ場業界がここ数年採用してきた営業手法は、「単価は下げるものの、稼働率を上げることによって、結果的には売上を伸ばす」という作戦であった。この手法は、確かに稼働に余裕がある状況では、少なくとも売上を伸ばす可能性が十分あり、有効であったはずだ。しかし、大きな誤算もあった。ゴルフ人口の急減な減少である。
ゴルフ人口が減っても、一人あたりのラウンド回数を上げることさえできれば、必ずしも総入場者数が減るとは限らない。実際、プレー料金が大幅に下がった昨今は、バブル期よりも一人あたりのラウンド数は増加している。しかし、そうは言っても、一人ができるラウンド数には限度がある。何より、収入に限りがあるシニア層が中核を為す今日では、ゴルフ関連に支払う金額も自ずと頭打ちになって当然だ。プレー料金を安くしたことで平日の稼働は上がったものの、週末の稼働が減少傾向にある現状。これこそが、まさにゴルフ人口が確実に減っている証拠なのである。
更に誤算といえば、経営に行き詰まったからといって、そのゴルフ場がマーケットから退場するわけではないということだ。優先債権の返済、雇用の確保、会員の保護、広大な用地を他の用途へ転用することが困難なことなど、ゴルフ場は完全撤退するにもハードルが高い。破綻するまで価格競争を続け、仮に破綻しても再びゴルフ場として再生されるわけで、結局マーケット内の総供給数は減少しないことになる。厄介なことは、法的整理などによって負債がなくなり身軽になったゴルフ場が、更なる価格戦争を仕掛けてくることだ。需要と供給のバランスが崩れた中で、無理して稼働率を高めようとすればするほど客単価が下がるのは、むしろ当然の成り行きといえるだろう。
このようにゴルフ人口が減少を続け、客単価も減少し、更にゴルフ場の数がなかなか減少しないとすれば、ゴルフ場の売上は今後どのような変化を辿る可能性があるのだろうか? レジャー白書やゴルフ場事業協会が発表している統計数字を基に、ひとつのシミュレーションをおこなってみる。
仮に現在5万人の来場者があり、客単価1万円で、年間5億円を売り上げているゴルフ場があるとする。いたずらに来場者数の確保を追わず、来場者数はゴルフ人口の減少率と同じ割合で減少すると想定。更に単価は、ここ5年間に於ける客単価の平均減少率で下がっていくと仮定する。この条件でシミュレーションすると、僅か5年後には4億円程度になり、更に6年経った11年後には3億円を割り込む計算となる。つまり、今から10年後には現在の6割程度の売り上げとなると試算されるのだ。信じられない話しかもしれないが、これが現実。だからこそ、その減少した売り上げにも耐えられるだけの省力化、即ち人件費の削減は、必須であり急務といえるのである。
もちろん、中には例外のゴルフ場もあるだろう。例えば、首都圏から50キロ圏内にある、アクセスに恵まれているケースだ。立地条件の良いゴルフ場には、料金がこなれてさえいれば、遠出を避けたいゴルファーが必ず集まる。また、普段は敷居が高く、一般ビジターがプレー出来ないような名門コース。このケースもビジターに門戸を開けば、ある程度のファンを取り込むことができるはずだ。もっとも、いくら名門コースといえども、料金次第であることは間違いない。いずれにしろ、これらの例外的なゴルフ場は客単価の下落こそあれ、料金次第では一定レベルの集客数を保つことができるため、前述のような大幅な減少率は防げるはずだ。但し、残念ながらこの恩恵を被ることができるのは、ほんの一握りのゴルフ場に限られる。