ゴルフ場の生き残りを賭ける、一歩先行く省力運営

必然性によって生まれたアメリカの合理的運営術

ゴルフ大国アメリカから学ぶゴルフ場の運営方法は数多い。中でも、ゴルフをスポーツとして捉えた合理的な発想に基づく省力化に関しては、まさに先進国と言えるだろう。そこで今回は、数々のアイディアによって省力化を具現化してきた筆者が、アメリカのゴルフ場運営を参考に、日本のゴルフ場が進むべき道を検証する。

砂漠の中のアリゾナ州はまさに憧れのゴルフ天国

 「ゴルフ天国」と聞いて、皆さんはどこを思い浮かべるだろうか? 世界に目を向けると、「東のセント・アンドルーズ」「西のペブルビーチ」と称されているが、300コース余りを有するアメリカのアリゾナ州も、その一角に入ることは間違いない。

 仕事柄海外へ行く機会が多い筆者であるが、アリゾナには少なくとも2年に1度は出掛けるようにしている。それは何故なのか? 実はこのアリゾナ、中でも州都フェニックス周辺のゴルフ場こそが、世界のゴルフ場運営の最先端を走っていると信じているからに他ならない。ちなみに、世界中で高級コースの運営を手がける「トゥルーン・ゴルフ」社も、このフェニックスの衛星都市スコッツデール市に本拠地を構える。

 では何故、このアリゾナが世界のゴルフ場運営の最先端と言えるのか? 確かに、サボテンと砂漠(デザート)しかなく(といっても「砂」ではなく、「小石」が中心の砂漠である)、四季の変化に乏しいアリゾナのゴルフ場は、「世界のトップ100コース」に選ばれるような「超」が付く名門コースは少ない。しかし、その有り余る用地を使って自由度の高い設計ができるだけに、今をときめく有名なコース設計家によるゴルフ場は数多い。トム・ファジオやリース・ジョーンズと言った大御所はもちろん、トム・ドークやベン・クレンショー&ビル・クーアといった新進気鋭、そしてジェイ・モリッシュやゲーリー・パンクスといったアリゾナで圧倒的な知名度を誇る設計家など、1回の訪問ではおよそ回りきれないほどバラエティに富んでいるのである。

 参考までに筆者がお薦めするコースは、PGAツアーのフェニックスオープンを毎年開催しているTPCスコッツデールのスタジアムコース。今年は松山英樹選手が活躍したトーナメントだっただけに、テレビで目にした読者も多いのではないか? ここは全米オープン覇者トム・ワイスコフとジェイ・モリッシュ設計によるビッグトーナメントの開催を目的に造られたゴルフ場で、大会期間中は月曜日の練習ラウンドで既に2万人、土曜日には何と19万人もの入場者を飲み込むというから驚きだ(日曜日は全米最大のお祭り、アメリカンフットボールの決勝戦「スーパーボール」と重なるために入場者は10万人程度に減る)。中でも16番のパー3は、そこだけで2万にものキャパシティを誇る仮設のスタジアムになっており、ツアーでもっともエキサイトするホールと言われている(日本の男子ツアーで最も入場者が多い「中日クラウンズ」でさえ、最終日にやっと1万人を超える程度である)。尚、トム・ワイスコフとジェイ・モリッシュのコンビは、アリゾナで最も評価が高いと言われているトゥルーン・ノースゴルフクラブを手掛けていることでも有名だ。

 スコッツデールにあるグレイホークゴルフクラブは、トム・ファジオとゲーリー・パンクスがそれぞれ18ホールの設計を担当した高級コース。スタッフはフィル・ミケルソンばりの好男子揃いなのだが、それもそのはず、そのフィルが所属するゴルフ場として知られている。アリゾナ州立大学出身のフィルの人気はここアリゾナでは絶大で、筆者も何度かグレイホークゴルフクラブのドライビングレンジで彼に遭遇した経験を持つ。

 ウィコパゴルフクラブも、スコット・ミラーとベン・クレンショウ&ビル・クーアがそれぞれ18ホールを担当した、穴場的なゴルフ場だ。中でも注目は、ベン・クレンショウ&ビル・クーアが手掛けたサワロコース(サボテンの意味)。トム・ドーク、デビッド・キッドと共に「現代の御三家」と呼ばれる寡作な人気設計家のコースだけに、その設計手法や造形方法は見逃せない。スコッツデールには、トーキングスティックゴルフクラブというベン・クレンショウ&ビル・クーアが手掛けた36ホールのコースがあり、こちらも注目だ。

 ここに紹介したゴルフ場は全てインターネットからも気軽に予約できるパブリックコースなので、アリゾナを訪れた際には、是非ともラウンドすることをお薦めしたい。

 一方、コース管理技術に関しては、疑いなく世界の最先端と言える。何せ、真夏ともなると40度を超え、そうかと思えば真冬には氷点下さえも珍しくはない。そんな過酷な気象条件の下で繊細なグリーンを維持管理しているのである。散水の仕方、更新作業の方法、更にはスタッフのシフトなど、学ぶべき点は多岐にわたる。バンカーエッジやグリーンカラーの仕上げ方など、優れた設計家によるコースは、優れたコース管理があってはじめて成り立っていると言うことが、ここアリゾナでは痛いほど良く解るのである。

必然性によって生まれたアメリカの合理的運営術

 アメリカのゴルフ場で一度でもプレーをしたことがあれば、その合理的な運営方法はすぐに解るはずである。機能的なクラブハウス、乗用カートを使ったラウンド、セルフプレー、18ホールのスループレー・・・。もちろん、歩いてラウンドできるコースもあれば、キャディが居るゴルフ場もあるが、それらのコースでも大半は選択制。また、どんな名門クラブ、高級コースであろうと、ゴルフ場に来るのに「ジャケット着用」、プレーをするのに「ハイソックス着用」などといった堅苦しいことを言うゴルフ場はない(さすがにTシャツとジーンズは禁止されていることが多いが・・・)。ジャケットを着用しなければいけないのはあくまでもメインのダイニングルームだけのことが多く、ゴルフだけのためなら短パンにショートソックスで訪れ、駐車場でシューズを履き替えるといった具合だ。こうした合理的なシステムは、「名門」「大衆」、そして「高級」「カジュアル」といったあらゆるジャンルのゴルフ場に於いて、“普遍”のスタイルとなっている。

 もっとも、そんな合理性に溢れたアメリカであるが、最初から現在のようなスタイルだったわけではないという。ヨーロッパからの移民によって、アメリカにゴルフが伝わった当初は階級意識も強く、キャディを従えてのラウンドはもちろんのこと、クラブハウスも宮殿並みの豪華さを誇っていた。ところが、1929年の世界恐慌によって状況は一変する。多くの富裕層が財を失い、それに伴ってゴルフ場も閉鎖、もしくは経営方針の変換を余儀なくされたのだ。まさに、25年前の日本の「バブル崩壊」と同じことが、アメリカでは実に100年近くも前に起きていたというわけである。このときの経験と学習により、アメリカでは合理的な運営、つまりはどんな名門クラブであろうと、ことプレーに関してはできる限りシンプルなスタイルを採り入れながら、現在に至っている。

 但し、合理的なアメリカの運営が味気ないかと言えば、決してそんなことはない。多くのアメリカのゴルフ場では、チェックイン時のプロショップにスタッフが1?2人。スターターも1ウェイ方式であれば1人で事足りる。しかし、そのスタッフは皆一様にフレンドリーであり、「どうすれば今日のラウンドを楽しめるのか?」を、きちんと説明してくれる。一方、ラウンドに関してもカートをフェアウェイに乗入れしながらプレーできるコースが多いので、スムーズな快適ラウンドが可能だ。高級コースともなればモニター付のGPSナビゲーションシステムが装備されているので尚更である。しかも、徒に入場者を詰め込んでいないため、コースコンディションも良好に保たれているケースが多い。つまり、スタッフの数が少ないからといってプレーに不自由をするわけではなく、むしろそのプレー環境は日本よりも優れており、快適なゴルフを楽しめるというわけなのだ。ちなみに、日本のゴルファーが約800万人で、ゴルフコースが約2,400コースであるのに対し、アメリカはゴルファーが約2,000万人で、約16,000ものコースがある。

 では、アメリカの合理的な運営と日本の運営の最大の違いは、一体どこにあるのだろうか? そのキーワードが18ホールを一気にラウンドする「スループレー」であることは間違いない。

次項へ  

このページトップへ