「スマートゴルフ」が、これからのゴルフ場を変える!part2

変化に適応して生き残るゴルフ場業界の「進化論」

 「頑張らない営業」というのは、頑張って売上を伸ばさなくても利益を確保できる営業のこと。言い換えるなら、「身の丈にあった営業」のことである。
 今後のゴルフ人口の減少によるゴルフ場来場者数の減少率、そして客単価の減少率を基に試算し、更にはゴルフ場の数がそれほど減少しないとすると、2020年頃には現在のおよそ7割程度、厳しいゴルフ場によっては約5割程度の売上になることが予測される。では、そんなゴルフ場業界に、未来はあるのだろうか? 
 北海道のあるゴルフ場では、年間1億円程度の売り上げしかないが、それでも利益を出している。その理由は徹底した合理化、そして省力化により、支出を極端に抑えているからに他ならない。キャディバッグは自分でクルマから下ろし、料金は前払い。ラウンドがセルフプレーなだけでなく、レストランもセルフサービス。ちなみに、我々はこのようなシンプルな運営スタイルを「スマートオペレーション」と呼んでいるのだが、見逃せないのはそのクラブハウスの機能性の高さである。
 ログハウス調のこのクラブハウスは、建物の半分がカート庫、残りの半分がロッカーとレストラン。ちなみに、お風呂はなく、シャワーだけである。また、ロビーはなく、プロショップの中にフロントがあるだけだ。このようにコンパクトなクラブハウスであれば、水道光熱費や固定資産税はもちろん、人件費だって大いに削減可能となる。実際、上記のゴルフ場では、フロントとスタート係だけであれば5名程度。コース管理や外注しているレストランのスタッフを入れても20名に届かない。このゴルフ場は北海道の中でも過疎地にあるために収入が極端に低いが、仮にこの運営で収入がもう少しあれば、利益率の高い立派なビジネスモデルとなる。実際、2億円の収入で5千万円の利益を出す、利益率25%という高収益のゴルフ場も少なくない。つまり、予め入場者が少なく、収入が少ないことを前提に支出を抑えさえすれば、「斜陽産業」と言われるゴルフ場ビジネスにだって、まだまだ明るい未来があるのだ。
 一方、大きなクラブハウスは、それだけで人件費が嵩むもの。例えば、キャディバッグの動線が長くなれば、それぞれの場所に管理するスタッフが必要となるし、トイレの数が沢山あれば、それを綺麗にする清掃員が余分に必要になるといった具合だ。
 では、クラブハウスを小さくしても問題はないのだろうか? また、どこまで小さくして良いのだろうか? 「今後は入場者数が減る」「無理に稼働率を追わない」という要素を念頭に置けば、クラブハウスは極限まで小さくすることが可能となる。例えば、最近盛んに議論されるスループレーであるが、これなど議論の余地すらなくなるだろう。つまり、こういうことだ。一日の組数が30組を下回り、スタート枠に余裕があることが当たり前になれば、ハーフターンの時に、そのままスルーで出たければ出ることが可能となる。そして、そうしたゴルファーが増えれば(スタート時間の早いゴルファーほど、当然ながらスルーの可能性は高まる)、レストランの稼働率は一気に減少し、ゴルフ場はレストラン部門を維持することが困難になる。レストラン維持が困難になったゴルフ場は、今度は意図的にスループレーを推奨するだろう。ゴルファーに選択肢を与えた瞬間に、一気にバランスが崩れてしまうことは、歩きのラウンドから乗用カートのラウンド、そしてキャディ付きのラウンドがセルフプレーに移行したことで、既に実証済みである。
 現在、特に平日の来場者は、前述のように時間に余裕がある高齢者層が中心になっているため、時間を効率よく使えるスループレーのニーズは低い。また、休憩の短いスループレーは体力的にもきついイメージがあるので、敬遠されがちで当然だ。しかし、この高齢者層が減少し、しかもスタート枠に余裕が出てくると・・・。議論の余地がなくなるというのは、こうした理由があるからに他ならない。
 もっとも、こうした流れは必ずしもネガティブな要素ばかりとは言えない。例えば、「スルーが当たり前」と腹をくくれば、レストランの座席数は少なくて済み、結果としてクラブハウスも小さくできる。「そうは言ってもコンペがあるし」といった声もあるだろうが、心配ご無用。これまでのゴルフ場は自ら稼働率を高め、その高稼働に合わせた運営をしてきたが、効率性を追求して省力化を実現したクラブハウスが小さなゴルフ場は、そもそもコンペを取らなくても良い、高利益体質になっているのである。稼働率を追い求めないというのは、まさにそういうことなのだ。また、「メンバーだって黙っていない」という声もあるだろうが、これから先はそのメンバー数すら、大きく減少してしまうのである。
 但し、小さなクラブハウスであっても、忘れてならないのは「お洒落」「清潔」といった要素だ。明るくシンプルで「ゴルフ場のクラブハウスは、これで十分だよね!」と言って貰えることが大切で、プレハブ小屋のように,ゴルファーに惨めな思いをさせてしまうようであれば、それは運営施設として失格である。
 クラブハウスを小さくして省力化を図り、スマートオペレーションで来るべき時代に備える。そうすれば今以上に客単価が下がっても余裕で対応できるし、そもそも、無理に単価を下げて稼働率を高める必要もなくなる。また、仮に単価が下がったとしても、それによって若い世代がゴルフを始めてくれるようになれば、それはそれで未来もある。もちろん、クラブハウスの建て替えとなれば,規模が小さいとはいえ新たな資本投下が必要となる。そのため、実行できるゴルフ場は限定されるだろう。しかし、それを成し遂げたゴルフ場こそが、この先10年、そして20年後も生き残ることができるのだ。
 「種の起源」を記したダーウィンは、その進化論の中で、「生き残っていくことのできる生物は、強い生物ではなく、環境に適応できる生物である」と述べている。実は、ゴルフ場に於いても、まったく同じことが言えるのだ。つまり、これから先の時代を生き抜けるゴルフ場は、「人気コース」でも、ましてや「名門コース」でもなく、この厳しい環境に適応できるゴルフ場であると。これがまさに、「ゴルフ場進化論」なのである。



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