乗用カー、そしてセルフプレーが一気に浸透したのは周知の通り。では、スループレーはどうだろうか?
シニア層、団塊の世代といった大きなターゲットが目先にあるものの、そのマーケットには時間的な限界がある。将来にわたり、ゴルフ場が今のような来場者を確保するためには、若年層のゴルフへの参加率を高めることしか道はない。では、現状のゴルフが、若年層にとって魅力的に映っているだろうか?
確かにプレーフィが安くなったおかげでゴルフ場に行けるチャンスは増大したかも知れない。しかし、お金だけでは代えられないものがある。それが、時間だ。
首都圏に住むゴルファーは朝早くから起きてゴルフ場へ向かい、帰りは渋滞にはまって日が暮れるのが普通であるが、「あれもしたい、これもしたい」といった欲張りな現代の若者にとって、こうした行動パターンは受け入れ難い。既婚者であれば「1日中自分だけ遊んで…」といった冷たい視線を家族から浴びせられるに違いない。
以前のようにプレーフィが高ければたっぷり1日かけて元を取ろうという気持ちになるが、現在のようにプレーフィが安いのであれば短時間でプレーを終えて、他の事に時間を費やしたくなるのも当然といえるだろう。家族がいれば家庭サービスが待っている。そこで注目されるのが、昼食休憩を挟まずに18ホールを一気にラウンドしてしまうスループレーのラウンドスタイルだ。
もちろん、ゴルフ場から見るとスループレーにはいくつかのデメリットがある。たとえば、日の長い時期は予約が多く取れる一方で、日没が早い時期は極端に予約受付組数が減少する。秋のコンペシーズンに予約組数が確保できないのは確かに痛い。また、多くのゴルフ場が懸念するように、レストランの喫食率は下がり、実際レストラン部門の収益は低下するだろう。
ただし、スループレーを前提にしても年間で5万人前後を受け入れるキャパシティは確保できるし、レストランの収益だって全くなくなるわけではない。また、生きている以上は何処かで食事を採らなくてはいけないわけで、ゴルフ場だって努力次第でその選択肢の中に十分入れるはず。ハーフで休憩するというラウンドシステムによって強制的に利用させ、だからこそゴルフ場のレストランが成り立っているというのであれば、これほど寂しいことはない。何より、ゴルフ場はプレーフィで稼ぐものと割り切れば、レストランの収益分くらいは入場者数で十分にカバーできるはず。そもそもゴルフの原点であり、世界的にもスタンダードなラウンドスタイルのスループレー。いつまでも日本だけが“特別”であることが許される時代ではないのだ。
若年層に於ける参加率の増加同様、ゴルフ場が積極的に取り組みたいのがレディスゴルファーの利用促進である。今や、すべてのゴルフ場がレディスゴルファーに対して何らかの営業施策をおこない、彼女たちの来場回数を増加させようと必死だ。しかし、本当にレディスゴルファーを優しく受け入れようとしているのだろうか?
レディス対策として真っ先に挙げられるのがコースの総ヤーデージだ。「レディスに優しい」ということを謳うのであれば、5,000ヤード程度のレディスティが欲しいところであるが、多くのゴルフ場、特に古いゴルフ場ほど長くなる傾向にある。あるゴルフメーカーの調査によると、レディスゴルファーのドライバーの平均飛距離は150ヤード程度。この数字を基にすると、300ヤードを超えるパー4では、物理的にパーオンができないということがわかる。一方で、「レディスゴルファーにも上手いゴルファーがいるので、短すぎるのはどうか」といった議論になる。確かに女性にも飛ばし屋はいるし、70台でラウンドするゴルファーもいる。ただし、そうしたゴルファーは最初からレディスティを選ばなければ良いだけだし、実際に選ぶことはないだろう。レディスゴルファーにもパーやバーディが獲れる環境を整備し、今以上にゴルフの楽しさを体感して貰う。問題なのは、
“選択肢”すらない現状なのである。
クラブハウスや施設関係では、豪華さよりも清潔さが大切だ。トイレに関しては、コース内に少なければ新たに増設する必要があるだろう。また、セルフプレーの場合、トイレの場所はコースガイド(ゴルフ場全体図)に必ず明記すべきである。何番ホールが一番トイレに近いのか? あと何ホール我慢すれば茶店があるのか? カジュアルゴルフであっても、こうした内容はゴルフ場がゴルファーに教えなくてはいけない最低限の情報なのである。
実はレディスゴルファー対策としても、スループレーは有効だ。女性、特に平日に来場する家庭をもったレディスゴルファーは、夕飯の準備などがあるためにできるだけ早く自宅に帰りたいという。その点、スループレーであればゴルフ場での滞在時間は短くて済むので安心というわけだ。実際、埼玉県で全組スループレーを採り入れたゴルフ場では、そんなレディスゴルファーたちで連日大賑わいである。
カジュアルゴルフに、「安っぽい」というイメージ持つのであれば、それはあまりに胆略的である。間違ってはいけないのは、「カジュアル」と「安っぽい」とは明らかに違うということだ。たとえば、欧米の名門クラブはどうだろう? 実はプレーをするために訪れるゴルファーに「ジャケットを着用」を義務づけるゴルフ場はまずない。確かにメインダイニングに入るときにはジャケット着用を義務づけられたりするが、プレーをするだけであればプロショップで受け付けて、それで終了。ビジターはクラブハウスにすら入ることができない名門クラブが多いので、シューズは駐車場で履き替える。ちなみに、ゴルフウェアは予め出掛けるときから着ているのが普通。今さらいうまでもないが、プレーの途中なのにクラブハウスへ戻って食事をすることもない。どっからどう見ても、まさにカジュアルゴルフである。
シンプルな運営を可能としてくれるカジュアル化は、ゴルフそのものの“原点回帰”ともいえる流れだ。何より、シンプルな運営は収益改善に向けたゴルフ場の必須アイテムであることは間違いない。